佐野や小林が共感し影響を受けた素敵な人たちがいます。このホームページでぜひ紹介したいという想いからうまれたこのインタビュー企画。あなたの日々の小さな気づきにつながればうれしく思います。ほんの少しの時間、どうぞお付き合い下さい。
かぞくとしごと。くらしをかえて みえたこと。
NEEDLE&THREAD、Meji / オーナー 片桐好章・秀弥(家族構成:ご夫婦・お子様二人・愛犬)
佐野や「藤が丘・住居兼店舗の設計」
2013年5月31日に竣工した自宅兼店舗。お二人にとって2店舗目になるお店は、手ぬぐい1つでもオシャレに豊かに楽しめるライフスタイルショップ「Meji」。2Fは家族との大切な時間を過ごせることがコンセプトの住居スペース。しごと、かぞく、すむこと、を通して、佐野や小林とご夫婦の生き方をお聞きしました。
取材・文 / 所澤陽子
「町を変えたい」って思いがありました。
──まずは佐野やの小林さんとの出会いをお聞かせ下さい。
片桐 以前働いていたお店、洋服屋なんですが、そこにお客様で来てくれたことがきっかけでしたね。それから仲良くさせてもらってました。
──店長をされていたと聞きましたが、独立されてお店をやろうと思ったきっかけは?
片桐 僕は名古屋出身、かみさんは東京出身なんです。僕が上京して洋服屋で働いていて、その時この人となら一緒に仕事したいなという気持ちがありました。
名古屋に帰るつもりではなかったんですが、転勤で名古屋に帰ってきてそのお店で店長として立ち上げに関わりました。そう、だから帰ってきたことがきっかけでしたね。
夫婦でお店をはじめて、高架下の洋服屋(NEEDLE&THREAD)は7年、このお店(Meji)は今年オープンしました。
──藤が丘というエリアを選んだ理由を聞かせて下さい。
片桐 真ん中に近すぎず離れすぎず。そんな意味で藤が丘はちょうど良かったです。他の街もそれぞれ特徴があっていいけど、藤が丘は発展的なエリアが広く将来的に考えるとそっちの方が面白いし・・・
「町を変えたい」って思いがありましたね。
東京でいうと、吉祥寺、中目黒、代官山をそういう風にとらえていて、郊外でもなく1つの町として藤が丘を選びました。
──では、お店の物件選びについてはどうでしたか?
片桐 1軒目のNEEDLE&THREADは藤が丘の駅のすぐそば、高架下のお店です。まわりは飲み屋さんばかりなんですが、なんだかそれがよかったんです。
2軒目のMejiは自宅兼店舗です。駅から離れているのですが、車通りが多いんですね。だから昔の八百屋や魚屋の商店のように間口いっぱいガラスでOPENにして外から入りやすく、目立つようにしました。
だから家が大事だと思うんです。
──なぜ自宅と兼ねてと考えられたんですか?
片桐 子どもとの時間も大切にしたい、でも仕事にも取り組みたい。そんな想いがありました。この環境なら子どもたちの顔を見ながらお店もやっていけますよね。「ただいまー」って帰ってくる。自宅と店が一緒になることで、家族とあったかみのある関係ができればと思いましたね。
──物件を見つけてそれから小林さんに相談されたのですが?
片桐 そうですね。第一声が小林さんの「どうこれドキドキした?」でした(笑)僕的には直感だったんですが(笑)でもこの物件難ありだったんです。古いのもあるんですが、飲食店で汚れもひどかったです。2階部分の一部の床もなかったし。
──古くて木造、耐震は心配されなかったですか?
小林 どこをとるか、安全をとるか自分たちの想いをとるかですよね。
片桐 悩んだというか、大工さんに耐震の事聞いたら、「俺たちそんなやわなもん作ってないよ」って(笑)結局、どんな家でも絶対って言えないですよね。
奥様 でもとにかくこの家は住みやすいんですよ。モノが少なくても生活ができてる!それって片付けがラクなんです。引っ越してきてさらに捨てましたもん(笑)
──住む場所が変わるとライフスタイルも、もしかしたら自分たちの性格にも変化があるような気がしますね。
片桐 だから家が大事だと思うんです。
小林 きっと建売りの家を買っていたら違ってましたよね。
片桐 そうかもしれないです。下のお店ができてから考え方が変わったかもしれない。自分らしく、素直になったような。
──私の仕事で自分の経験値を越えることって、お客様が冒険してくれることがきっかけだったりします。
小林 ここがこんな風に完成したのはこの夫婦のおかげだったりするんです。
片桐 常識は自分たちの常識じゃないかって。何よりお互いトライしやすかったですよね。そういえばこのガラス、小林さんの奥さんの実家のガラスですよね。
小林 そうなんです。こんな型板ガラスもうないんですよ。
──ステキですね。捨てられるだけのものが、こんな風に息を吹き返すなんて。あと漆喰壁。みんなで塗られたんですよね。
片桐そうなんですよ。思い出ですね。
幸せですよね。一緒に寝ることって。
──この家とお店ができたことで何か自分たちの中で変わったということがありましたか?
片桐 やはり一番は子どもたちとの時間を作れたこと。ずっと休みなくやってきて、この店ができたことで定休日を作りました。いつまで子どもたちと一緒に寝れるかわからないです。幸せですよね。一緒に寝ることって。昔の家ってみんなで寝てましたよね。NHKのドラマとか見ると、おばあちゃんまで一緒に寝てる!
18になって自分たちも好きなことをやってきて、子どもたちも18になったら好きなことをすればいいと思う。
名古屋に、日本にもいないかもしれない。一緒の時間ってきっと限られているんですよね。今は子どもたちは自分たちの流れでこんな風に生活している。それがいい風にいけばいいなと思いますね。
お店のことで変化があったというなら人とのコミュニケーションです。ご近所付き合いがはじまったり、いろんなことを地域密着でやっていきたいと思いましたね。
──当初、藤が丘に感じた町を変えたいと言っていたことに つながりますね。藤が丘マルシェもそんな中、 実現したことですか?
片桐 そうですね。未来に目を向けても今、不景気って言われて状況って待っていても変わらない。自分がお店を持った以上、誰のせいにもできないし。じゃあ自分でいいと思う場所を、作っていけばいいと思ったんですよね。
──まるでこの住居スペースのようですね。
片桐 そうですね。この空間だけでもちゃんと仕切れて住みやすく機能するんだって思いましたね。大きく線を入れなくてもよくて、部屋同士が点線の関係。
──確かに一見あいまいな感じですね。
片桐 でも1つ1つ目的があるんです。小林さんが言ってくれたとおり、ここがリビング、ここはキッチン、ここが寝室。この中に自分たちの想いがあって、この段差も自分たちにとってとてもポジティブなもの。
──段差は子どもにとって危ないものに感じますよね。
片桐 でもおばあちゃんが、こうやっておしりから降りるんだよって教えてるんですね。じゃあちゃんとおしりから降りてる(笑)
人を育てるって人間として最終的な目標かもしれないです。
──住む空間は子育てに影響するんですね。そういえばいま、お店にはスタッフの方がいらっしゃいますね。人を育てるととらえれば同じですよね。
奥様 人を入れるって広がるんですけど、やっぱり難しい。
片桐 人を育てるって人間として最終的な目標かもしれないですね。
小林 ここを建てる前から言ってましたよね。
片桐 スタッフも人も環境と縁が揃うんであれば、育てるって大事な事だと思う。そして洋服屋だってデザイナーだって育てないとこの世からいなくなっちゃう。自分たちも育ててもらってきたんだから誰かに返していけたらなと思う。
──優秀な人を雇えば会社にとって即戦力だけど、ついデコボコした人を雇ってしまう。自分を活かしてもらったという感覚があるんだと思うんですが。
片桐 わかる!優秀なヤツはどこにいっても優秀。自分もそうだったんだけど、不器用なヤツをちゃんと育て上げることができるんであれば、きっと大きな力になってくれると思います。
──人を育てる時に気をつけていることってなんですか?
片桐 自分に余裕がないとダメですよね。できなくてあたりまえ。できないことが自分の責任だと思えないと。人間の価値観って違うから「やっておいて」って頼んでできないなら「書こうか」とつたえなきゃいけないんだろうし、「一緒にやろうか」とかね。あたりまえが向こうにはあたりまえじゃないんだと気がつきました。
悪いところを見つけるんじゃなくて、いいところを見つけてあげた方がいい。いいところは誰にでもあるから。
相手の立場になってモノを考えられるかどうかが大切ですね。デザイナーってお仕事にも思いやり、必要ですよね。
──そう考えると独立することでより誠実に仕事に向き合えるってあるかもしれないですね。
小林 自分に素直でいれるのかも。
片桐 納得しないものはする必要がないというか。
──やらされている感はないですよね
片桐 自分でやりたい事をやる。やれないこともあるんだけど。孤独だけど楽しいですよね。恐怖心はぬぐえないけど。
──あります。月末の恐怖心(笑)
片桐 それは支払いですか?(笑)
──そうです(笑)
片桐 どの仕事も絶対大変ですよね。利益率がいい仕事でもそれはそれで大変な部分があるんだと思うんです。
ボーダーラインってないんじゃないかと思う。
──お店を構えている方って何時から何時まで決まった時間で終われて羨ましいって思うんです。でもよく考えると大変ですよね。
奥様 どんな状態でも開けなきゃいけない。というプレッシャーはあります。風邪はひいてはいけない、どんな状況下でもどんな気持ちでもお店を開ける。
片桐 いったん開けたらそこから動けない。
──それはすごいです。
奥様 これからお店をする人に言えることは、OPENさせるためにいろんなことがあるかもしれないけど、本当のスタートはきっとOPENしてからなのかも知れません。もう始まったら終われない…。
──自営業ってもっと自由だと思ってましたよね。
奥様 そう考えると、全然自由じゃない。
片桐 自由だよ!!
──自由ですか?!
片桐 最近思うのはボーダーラインってないんじゃないかと思う。自分の気持ち次第。線引きって勝手に自分で引いてるんですよね。
小林 捉え方ですよね。
片桐 そういえば小林さんが実践してることじゃないですか?名古屋と長野を行き来してるよね。
それってオシャレなの?オシャレじゃないの?ってぐらい(笑)
──洋服選びやオシャレについて教えて下さい。
片桐 僕たちはきわどいところをいってます。それってオシャレなの?オシャレじゃないの?ってぐらい(笑)
奥様 もう、キメすぎたオシャレより少し力の抜けたオシャレが好きなんです。
片桐 Mejiをオープンさせてから藤が丘マルシェを始めました。皆さんに思いが伝わる様なチラシを作りたいと思いました。
奥様 とにかくわかりやすいのがいいなと思いました。かっこよさを追求すると言葉を入れたくなくなるんです。でもこれに関しては「藤が丘マルシェ」という言葉をみんなに知ってもらいたい目的がありました。
──出店者を見るとすごくマニアックな人たちがいたり、どうやって声かけしたんですか?
片桐 今回は知り合いに声をかけました。今後出て欲しい方達にはちらしを持って行って協力して欲しいと伝えました。
──これから楽しみですね。
小林 そういえばお店のDMもお二人の手作り。
片桐 一番の最新って手作りなんだと思うんです。何にしても気持ちが入っていればいいのかなと。手作りはその時1回のもの。それを大事にしています。
やりとりを振り返ると、とにかく一緒に考えようというスタンス。
──住居、店舗の設計を小林さんに任せてみて、ずばり「小林活用法」は何でしょう?
片桐 活用法って言われるとわからないけど、やりとりを振り返るととにかく一緒に考えようというスタンス。意見をすごく聞いてくれましたね。
奥様 打ち合せをたくさんしました。私たちの意見や要望を「いいね。いいね。」って聞いてくれて否定することはなかったです。
片桐 ポジティブだよね。ほとんどの意見を前向きにとらえてくれて、その中から出来ることを抜粋していく感じ。だから想いを伝えやすかった。
奥様 たぶん、自分たちの意見を優先してくれていたと思います。こだわりが強かったと思うので。
──想いや意見を出しきった感、ありますか?
片桐 ありますね!小林さんでなければ出来なかったと思います。こんなに言えなかった。他のデザイナーではここまで聞いてもらえなかったでしょうね。
ほんとに知恵を絞ってもらいました。僕たちはただ意見をゆっただけで、それを噛み砕いてこのカタチに落とし込んでくれたのは小林さんだったので。
──長い時間、インタビューありがとうございました。
片桐夫妻のお店は藤が丘にあります。「Meji」「NEEDLE&THREAD」
取材を終えて
初めてお会いする私に、緊張をほぐすように気さくに声をかけてくれたご夫婦。なんとも心地良い空気を感じながらインタビューをスタートさせました。同じ世代で小さな子どもを持ち、自営業という共通点の4人。リアルな話に共感しながら、話はひろがっていきました。その中で30・40代に直面する「育てる」というキーワードは私にとって大きな気づきでもありました。
そしてこだわりのあるお二人の価値観を、さらに広げることになった理由の1つに空間とデザイナーの役割がありました。小林さんが大切にしているカタチにするまでの丁寧なプロセスは、施主様がシンプルに大切な事に気づき、ムダなモノをそぎ落としていくような確認作業です。そこから出た答えの1つに、当初から想い描いている「町を変えたい」という事への具体的なアクション「藤が丘マルシェ」があったということ。小林さんはそんな化学反応のようなことを楽しんでいるし、ご自分の役割だと思っているんだろうなと感じたインタビューでした。そしてこれから片桐夫妻のワクワクにもぜひ注目したい。
bishop 所澤陽子